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第一次産業のことを考えるとひーちゃんについて認めざるを得ない俺がいる
録音ボタンをONにしたスマホをパーカーのポケットに忍ばせた私は、再び妻の聴取を進めた。
「会社の上司?名前は?既婚者?昨日は何処で会ったの?今回が初めて?どんな話をしたの?」
妻は
「元上司で、今は違う部署のK主任、、。結婚している人。
私の方から、ひーちゃんとの悩みを聞いてもらおうと思って声を掛けたの、、、。
会った場所は駐車場で、K主任の車の中で話を聞いてもらっていたの、、、。
会ったのは3回目、、、。」
Kは既婚者。ダブル社内不倫の告白だった。社内不倫だから、Kは妻が既婚者である事は当たり前に知っていることになる。Kが不貞の損害賠償の請求対象者である事がほぼ確定した。本当にクソすぎる。ゴミだ。腐っている。法に触れないのなら今すぐ、ブチ殺してやりたいと言う衝動に駆られたが、今はポーカーフェイスを貫き情報を吸い上げる事。そして、妻の再出発の意思を見定めなければならない。
「そんなんだ、、。でも、話を聞いてもらうだけなら、駐車場なんかじゃなく、近くのファミレスとかで話すのが普通じゃない?
何で、K主任の車で二人きりになって、しかも、人がいない郊外の駐車場を場所に選んだの?
その場所を指定したのは誰なの?
というか、K主任の車はどんな車?普通のセダン?ワンボックスカーとか?
K主任の車の助手席にお前が座って、話していたの?」
妻は冷静に話している。ただ、言葉を選んで話す様な感覚ではある。
「、、、K主任の車はワンボックスカー。
K主任に話を聞いてもらっていたのは、後ろの座席、、、。
話す場所に、あそこの駐車場を選んだのは私、、、。
話す場所はファミレスでもよかったんだけど、あの駐車場を選んだ事に、特に理由はなかったの、、、。本当にごめんなさい、、。」
「ふーん。
というか、話を聞いてもらう為に、わざわざ、帰り道でもない、郊外の駐車場に行く事が理解できないね。K主任も帰宅する時間が遅くなるし、迷惑が掛かる。
と言うか、後ろの座席に並んで話してたの?
K主任のワンボックスカーは後部座席の窓はスモークガラス?」
歯切れの悪い口調で、多くを語らず、ただただ、ごめんなさいと謝る妻に、私は苛立ちが増した。
「、、、。K主任の車の後部座席は、スモークガラスだったと思う。あまり、気にしていなかったけど、、、。
疑われるのは無理もないけど、K主任には相談にのってもらっていただけで、何も疚しい事はしていないよ、、、。信じて、、、。」
妻はそう言いながら、私の肩に手を回してくる。気持ち悪い。本当に吐き気がする。こんな、話で私が納得すると思っているのか。吐き気を堪えて私は続ける。
「
本当に、嘘はないんだね?何度も言うけど、俺は、お前が全てを話してさえくれれば再スタートを切りたいと思っているんだ。
人気の無い、郊外の駐車場でフルスモークのワンボックスカーの後部座席に二人きりで座りながら、ただ話をするって事は不自然だし、全く釈然としない。
でも、それが本当だと言うのなら、俺は信じなければならない。
本当に、これ以上、隠し事も、嘘もないんだな?
罷り間違っても、明後日、興信所の、資料が届いてから、新たな事実が明るみになるなんて事は、当然ないんだな?
本当に信じていいんだな?
」
妻は頷きながら、
「ひーちゃん、、本当にごめんね、、、」
と、私を抱きしめてきた。私は妻の顔を直視できない。私は顔を背け、妻の背中をポンポンと軽く手で叩いてやるのが精一杯だった。
この期に及んでも全てを話さない妻の真意は一体なんなのか。再スタートをしたいが、全てを話したくないのか。
それとも
Kは既婚者である為、ダブル不倫が確定している。妻はKの配偶者に不貞がバレるのを恐れ、事実をもみ消し、この場をやり過ごす為だけに、見せかけだけの再スタートを私に約束しているのか。
何れにしても、今日、妻は全てを私に話す事はなかった。怒りや気持ち悪さで、呼吸をするのもしんどいが、先ず、今は、その気持ちを必死で抑えて冷静になり、明日まで妻の様子を見ることにした。
20年間以上、連れ添った妻だ。妻が真実を話さなくても再スタートの意思さえあるのならば、それはそれで、私も考え直さなければならないかもしれない。
妻へはチャンスは与えたい。いや、これほど非道な事をしてきた妻を、まだ、信じたいと願う自分に本当に情けなく、惨めになってくる。
あの直木賞作家がこっそり教えてくれるひーちゃんの真実
新幹線に乗り、在来線に乗り換え、自宅に着いたのは午後の14時ころだった。自宅に着くと玄関まで老犬が迎えに来た。老犬は私の帰宅を腹を出して喜ぶ。その後ろには、お帰りなさいと声を掛ける妻がいた。妻の表情を確認したかったが、その、妻の顔を私は直視できなかった。その理由は、まさに今でも、私の頭の中には、妻のカーセックス動画がエンドレスでプレイされているから。トイレに吐きに行く。
幸い、家には子供達がいない。嫌な話は、直ぐにでも片付けたい。トイレから戻った私は、ソファに腰掛けた。妻も私の隣に腰掛けてきた。ここ、約2ヶ月間。肩が触れ合う距離に近寄ってくる事はなかったし、LINEや電話、会話でもで、心のこもった会話など一切してこなかった妻。しかも、昨夜は逆ギレして電話を一方的に切った。そして、今朝は180度態度を翻して、仲直りしよう宣言。加えて、私の体に触れる距離で身を寄せて、隣に腰掛けてくる。全くもって、不自然だ。もはや、妻は、今、自分のしている事が、逆に、私に対して不信感を募らせる事だと感じられないくらい、おかしくなっているのだろう。妻の真意は一体、何なのか。妻は改めて私に気持ちを伝えて来た。
妻は私の目をしっかり見つめながら、そう話して来た。正直、本当に気持ち悪い。汚い。汚すぎる。近い距離でかかる、妻の吐息にも拒否反応しかない。私は
「いや、俺が今日、話したいのは、まず、昨日、何処で、何をしていたのかを聞きたいんだよ。自分の口で説明してもらいたいんだ。正直に話してくれ」
そう私は妻へ伝えると、妻は用意していたであろう表情と言葉で、こう切り出して来た。
「うん。昨日は、、、、残業はしていなかったんだ、、、。ごめんなさい。 仕事が終わってから、人に会って、相談にのってもらっていたの、、、。これまで、ひーちゃんと、いろいろあったから。残業と嘘をついて、ごめんなさい、、、、、。」
差し障らない回答だ。妻から、それ以上の言葉が、当然続くのだろうと、しばらく妻が口を開くのを待ったが、沈黙は続いた。というか、
こっちは、お前が主演のカーセックスAVが頭の中で永遠と流れて迷惑しているんだ!しかも!証拠も握ってんだよ!ふざけるな!興信所に依頼していたとまで話しているのに、此の期に及んでも、まだ、素直に事実を語らずにシラを切るつもりなのか!!??
とは言っても、不貞の証拠は握っているが、あの野郎が、何処の誰なのかが明確になっていない以上、ここでキレる訳にはいかない。野朗の車のナンバープレートは把握しているが、不貞は民事事件である以上、警察がナンバープレートから所有者を教えてくれるはずもないからだ。妻が野朗の身柄の情報を明かす事は考え難いが、今は、可能な限り聞き出す努力をしなければならない。
まどろっこしい。というか、また吐きそうだ。私は妻へ核心に触れる質問をした。
「誰と会っていたの?男の人?俺の知っている人?というか、興信所の調査資料は月曜日には単身赴任先のマンションに届くんだよ。俺は、興信所の調査資料で真実を知る前に、お前の口から真実を聞きたい。お前と再スタートを切る為に。俺は今回、お前にどのような事があったにせよ、お前が、自らの口で、正直に話してさえくれれば、また、再スタートを切りたいと思ってる。正直に話す事。そこから、これからが始まるんじゃない?誰と会っていたの?」
沈黙は続く。妻はこのまま、黙りを貫くつもりだのか。私は拒否反応する体に堪えながら、妻の目を見続け、回答を促した。
「同じ会社の男の人、、、」
妻は目を赤らませながらボソっと答えた。
妻は落ちた。この瞬間、私の何かのストレスが一気に吹き飛んだ。警官が犯人を落とした達成感。まさに、これがそうなのだろうか。と同時に頭の中でエンドレスにプレイされている、カーセックス動画が、より一段と気持ち悪さで増している。トイレに駆け込む。
昨日、妻は、野郎と、今の私との話の対策を必死で練っていたはず。その結果がこれか、、。
あまりにもバカ過ぎる。
私は妻が席を外した隙をみて、上着のパーカーのポケットに忍ばせたスマホの録音ボタンをOFFにした。先程の妻との会話はしっかり録音されていた事を確認した。これで、妻の不貞の証拠は決定的なものとなった。さあ、これからの会話で妻は、何処まで真実を語るのか。再度、スマホの録音ボタンをONにして、スマホをパーカーのポケットに忍ばせ、妻との会話を続けた。
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